『フラメンコの伝説(Leyenda del Flamenco)』は、国際的なフラメンコ界における最も権威ある賞のひとつとなっています。今年、ベンタ・デ・バルガス、フラメンコ・デ・ラ・イスラ、そしてレヴィスタ・ラ・フラグアによって構成される組織は、その功績を称え、舞踊家アントニオ・カナーレスを第13回『フラメンコの伝説』に選出しました。
この賞は、カマロンの故郷であるサン・フェルナンド島(ラ・イスラ)で創設され、フラメンコの歴史と普及において重要な役割を果たしてきた人物を称えるものです。
この発表は、カナル・スール・テレビジョンの番組『No dejes de soñar』の生放送中に行われました。マヌ・サンチェスとパストラ・ソレールが司会を務めたこの番組は、アントニオ・カナーレスに捧げられており、その中で今回の栄誉ある発表が行われました。
賞の創設者であるカルロス・レイ、チコ・ハビエル、ロロ・ピカルドの3名は、授賞機関の代表として、正式にカナーレス氏の選出を公表しました。カナーレス氏は、サン・フェルナンド市との深い絆を語りながら、誇りと感激、そして感謝の気持ちを表明しました。
カマロンの地、ラ・イスラから生まれた賞
『フラメンコの伝説』賞は、2010年にユネスコがフラメンコを無形文化遺産に認定したのを契機に創設されました。以来、フラメンコ・デ・ラ・イスラ、レヴィスタ・ラ・フラグア、ベンタ・デ・バルガスの三者が協力し、フラメンコに生涯を捧げた人物を称えてきました。
過去の受賞者には、ランカピーノ、フォスフォリート、ホセ・メルセ、カルメン・リナーレス、マリア・バルガス、クーロ・マレナ、レブリハーノ、パコ・セペロ、フアン・ビジャール、ホセ・ロサーダ“カレテ・デ・マラガ”、リカルド・パチョン、ホセ・マリア・ベラスケス=ガステルなどが名を連ねます。
今回の選出は、フラメンコを守り、広めようとするラ・イスラの継続的な取り組みの一環であり、カマロン・デ・ラ・イスラのような偉大な人物を輩出してきたこの街の文化的アイデンティティの象徴でもあります。
これにより、アントニオ・カナーレス氏は、伝説的なカンタオール、ギタリスト、フラメンコの普及に貢献した重要人物らと肩を並べることになります。
歴代「フラメンコの伝説」受賞者
- アロンソ・ヌニェス “ランカピーノ”
- アントニオ・フェルナンデス “フォスフォリート”
- パコ・セペロ
- クーロ・マレナ
- フアン・ペーニャ “レブリハーノ”
- カルメン・リナーレス
- フアン・ビジャール
- マリア・バルガス
- リカルド・パチョン
- ホセ・メルセ
- ホセ・ロサーダ “カレテ・デ・マラガ”
- ホセ・M・ベラスケス=ガステル
- アントニオ・カナーレス
授賞式は、11月16日の「国際フラメンコの日」の前後に、受賞者および関係機関のスケジュールに合わせて開催される予定です。
アントニオ・カナーレス、フラメンコに捧げた人生
1961年セビージャ生まれのアントニオ・ゴメス・デ・ロス・レジェス、通称アントニオ・カナーレスは、スペイン文化を代表するフラメンコ舞踊家、振付師、俳優のひとりであり、そのカリスマ性と才能で世界的に知られています。芸術一家に生まれ育った彼は、ダンスにおける卓越した技術と革新を融合させたキャリアを築き上げました。
スペイン国立バレエ団で研鑽を積み、ソリストとして活躍した後、世界各地の舞台で、ルドルフ・ヌレエフやマイヤ・プリセツカヤといった伝説的ダンサーと共演しました。この時期には、NAVISELA-88(イタリア)最優秀ダンサー賞、1990年メキシコ市国際最優秀ダンサー賞(フリオ・ボッカと共同受賞)など数々の賞を受賞しました。
転機となったのは、自身の舞踊団「バレエ・フラメンコ・アントニオ・カナーレス」を設立し、ビルバオで『ア・ティ・カルメン・アマジャ』と『シエンプレ・フラメンコ』を初演したことでした。そして、1993年の『トレロ(Torero)』は彼の代表作となり、700回を超える公演を記録。1995年には、TVEによる映像作品が「芸術的プレゼンテーション」部門でエミー賞にノミネートされました。
『トレロ』は、フラメンコと演劇を融合させた大規模な舞台作品で、現代フラメンコの新たな地平を切り開き、多くの後続アーティストに道を拓きました。同年にはスペインの国家舞踊賞も受賞し、その地位を不動のものとしました。
以後も『ヒターノ』、『シンデレラ』、『緑の目』、『ベングエス』など数々の作品を発表。映画『Vengo』(トニー・ガトリフ監督)に主演し、小説『サングレ・デ・アルベロ』(2002年)を出版するなど、多方面で活躍しました。
2020年にはスペイン文化功労金賞(Medalla de Oro al Mérito en las Bellas Artes)を受賞。2017年にはインダンサ協会より銀のスリッパ賞、2013年からはCIDユネスコの名誉会員に選ばれています。
2025年からの引退を表明しているものの、彼の情熱は衰えることなく、現在もタブラオ・フラメンコ1911(マドリード)やラ・イスラ・シウダ・フラメンカ、ベンタ・デ・バルガスなどの文化拠点でパドリーノ(後援者)を務めています。
国内外でクラスや講演を通じて、フラメンコの技術と精神を次世代へ伝え続けるアントニオ・カナーレス。彼の芸術への尽力と国際的な影響力は、『フラメンコの伝説』の称号にふさわしいものであるといえるでしょう。
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